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仙台高等裁判所 昭和26年(う)571号 判決

控訴人 被告人 徳山清吉こと朴三植

弁護人 成田篤郎

検察官 西海枝芳男関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人成田篤郎の控訴趣意は別紙記載のとおりである。

控訴趣意第二点について、

記録を精査し原判決摘示の証拠を綜合して考覈するに、原判決摘示第一事実は優に認定しうるところであつて原判決には事実誤認を窺うべき事由は毫も存しない。所論は原判決には被告人が窃取者前原健吉、松田昭徳から亜鉛板三枚を情を知りながら買受けたとあるが買受代金の表示がないから贓物故買としての認定は違法であるというのであるが原判決掲記の証拠によれば被告人は有償で窃取者前原健吉、松田昭徳等から盗品たるの情を知りながら亞鉛板三枚を買受ける約束をして其の物件を受取つた事実を確認しうるのであるから其の表現方法は買受けたと表示しただけで足り確定した買受代金の表示は贓物故買罪の成立には必ずしも必要ではない。原判決にはこの点に関し何等の違法も存しない。又所論は原判決第二事実の関係について原判決を批難しているが右は専ら原審相被告人中世古武一の罪となるべき事実であるから仮りに違法があつたとしても被告人の事件についての控訴理由として採用することは出来ない。以上のとおりであるから論旨は採用の限りでない。

同第一点について、

記録につき被告人の経歴、前科関係、犯行の動機態様、原審相被告人との刑の均衡、犯行後の情況、其の他諸般の情状を斟酌考量して原審の量刑を検討するに重きに失する不当があると認めることは出来ない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条に則り本件控訴を棄却すべきものとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野正太郎 裁判官 松村美佐男 裁判官 檀崎喜作)

弁護人成田篤郎の控訴趣意

第一点原判決は刑の量定が不当である。原判決理由第一、及第二は被告人朴が前原健吉、松田昭徳に於て太平鉱業株式会社細倉鉱業所から窃取した亜鉛板三枚を知情の下に買受けたこと及び之を相被告人中世古武一に内二枚を売渡したことを犯罪の対照として居り被告人朴を懲役十月罰金五千円、相被告人中世古を懲役八月罰金三千円に処したのであるが相被告人中世古に対しては但し三年間刑の執行を猶予したるに不拘被告人朴に対しては之のことなかりしは不当である。被告人朴は成るほど昭和二十一年十二月二十三日仙台地方裁判所で横領及物価統制令違反事件で懲役六月但し三年間執行猶予及罰金三千円に処せられた前科はあるが既に猶予期間満了して居り其の後は毫も犯罪を犯さず、肩書地で飲食店を営業して居る平和なる朝鮮人であつて今回偶々前原、松田等に働きかけられて両名の仲介を疑われたに過ぎないから刑法第二十五条を適用受くべき適格を有する、且つ事犯後改悛の情も顕著であつて今後再犯を敢てする虞はなきものと認むるに十分である。家庭の情況も妻子共あつて一家を営み犯罪者型を帯びた者ではないから両被告人を一方は第二十五条の適用を除外すべき理由となすに足りないので両者共に之を適用すべきが妥当である。若し夫れ右被告人に禁錮以上の前科があればであるが前記の通り無之に不拘此の被告人のみを実刑に処すべき事由は発見されないのである。其の他諸般の情状を調べて今度だけは第二十五条の恩典に浴せしめて将来を戒告せられんことを切望する次第である。仍而原判決は此の点で破棄せられるのが相当と思料する。

第二点原判決理由を見ると本件盗品の亞鉛板三枚を買受けたと判示しておるが之は事実の誤認がある。以下其の理由を申立する。被告人朴は窃取者前原、松田の両名から未だ嘗て右盗品を買受けては居らない。判決にも単に買受けたとあるだけで其の買受代金の表示がなく単に価格二万四千円相当のものと表示されあるのみであるから此の認定には理由齟齬の不法がある。又若し売買が行われたとすれば其の価格、単価、代金受授の日時、場所及び物の引渡の有無をも表示されねばならぬのであるが本件は被告人朴が買受けたのではないから此の点を認定するに由なきものであるのに原判決は売買行為が行われたものと敢て認定して居る所に事実の誤認がある。又被告人朴は相被告人中世古に売渡したと認定し居るけれ共未だ買受けない品物を被告人が売渡すべき謂われはなく且つ之の売買行為も其の代金額の表示、物の受渡の点に付き何等判示をして居らないから理由が齟齬した不当がある。真実は前原、松田両名が窃取して来たものを相被告中世古に売買の口火を切つてやつたに過ぎず、其の代金等には被告人朴は関与せんのが正しき視方であつて相被告中世古も被告人の口添で前原、松田等から買受けることを約したと認定すべきものだと思う。若しそうでないとすれば被告人は確かに前原や松田に代金を支払い中世古から代金を取つて居らなければ其の辻褄が合わないであろうことは当然の事理であるのに此の事なかりし本件に於ては到底前示原判決の認定を為すことが出来ぬからである。結局故買の罪は有償にて取得しなければ成立せんことは明白なる事実である。物の引渡を受くると否とは重点でないとする判例あるとしても其の有償取得の点を何等判示することなく故買を認めた原判決は事実誤認か理由齟齬かの不法があつて原判決は破毀すべきが正当であると信ずる。原判決挙示の証拠中被告人は原審公廷で自分が中世古に売る約束をし内二枚を金竜館に於て中世古に渡した旨の供述ありとするが右供述は敍上の点から考えてあり得べからざることで真実中世古に亞鉛板二枚を渡したものは前原であつて後の一枚も前原が金竜館に持参せんとする途中道路上で警察吏員に発見され不審訊問の結果発覚して遂に本件の全体が暴露されるに至つたものであることも窺知されるのである。只被告人朴が其の取引に介在したことは争われんと云うだけである。然らば原判決の此の点に関する認定は失当であるから破毀されねばならない。

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